「Cross×Road」ナビゲーターの森崎まきです。日刊工業新聞社は、起業家支援の新しい企画を立ち上げました。
若きアントレプレナーが、今、最も語り合いたい経営者との対談に挑みます。
対談に挑むのは、日刊工業新聞が運営主体のビジネスコンテスト「キャンパスベンチャーグランプリ(cvg)」の受賞者です。

いま、起業ブームが訪れようとしています。cvg2011の応募者は、前年より2割増えました。
資金面など会社設立のハードルが下がった、といった背景もあるでしょう。
2000年代前半のベンチャーブームと比べると、ネットベンチャーだけでなくソーシャルビジネスも目立ちます。
自己実現の手段として起業を選ぶ人が増えているのです。経営者は孤独な職業です。
この企画を通じて先駆者と出会うことでその孤独を、前進する力に変えてほしいと願っています。

第1回は、朴栄光さんと斉藤ウィリアム浩幸氏です。フェイスブックは何故、日本で生まれなかった?起業しにくい日本、だからこそチャンス。世界経済フォーラムに参加されるなど国際経験豊かな二人から、次々と繰り出される日本への愛ある「ダメ出し」。
そこから、現状打破の突破口が見えてきます。

失敗を冒険する環境をつくるリーダーの役目

株式会社インテカー代表
斉藤ウィリアム 浩幸(さいとう・うぃりあむ・ひろゆき)さん
米国育ちの 日本人起業家、ベンチャー投資家。コンピューター好きが高じて10代で起業。セキュリティーソフトウエア事業で国際的な成功を収める。04年に米マイクロソフトに事業売却。活動拠点を東京に移し「起業家として成功するきっかけを与えてくれた日本への恩返し」として、ベンチャー企業への投資や教育活 動を行う。世界経済フォーラム役員、国家戦略会議委員など役職多数。41歳。

米国は皆が手伝ってくれる。
日本ははしごを外されたような

株式会社イービーエム代表
朴 栄光(パク・ヨンガン)さん
下町育ちの起業家。早大院理工学研究科在籍中の06年、第2回cvg全国大会大賞を受賞。同年、東京都大田区で起業。外科手術訓練シミュレーターの開発、販売を行う。社名の由来はエンジニアリング・ベースド・メディスン(工学的見地に基づいた医療)。11年、世界経済フォーラムが選ぶ日本の若手リーダーの一員に選出された。「日本発モノづくりベンチャーで世界を目指す」30歳。

起業したものの、「日本で手術トレーニング市場がなかなか根付かない」と気付き、渡米しました。
すると、人を紹介したり、成長プランを提案したりと、優秀でイノベーティブなアイデアにみんなが応援し、手伝ってくれるんです。

斉藤

米国は起業する人にみんなが支援します。自分で苦労を知っているから。
日本はベンチャーキャピタル(VC)も銀行の延長で、お金あげてそのまんま。それでは育たないよね。

日本は起業までの支援はあっても、いざ起こすと「後は自分で頑張りなさい」という感じで。国の支援制度などが違うのでしょうか。

斉藤

一つ違うのはVC。本来のVCとは、人を紹介したり具体的な助言をしたりして、それを実行するためのお金を渡すんです。でも日本のVCの中には責任を取りたくないところもあるし、そういうコネクションもないから、「はい、担保込みでお金あげます」「頑張ってね」となっちゃう。支援というより寄付のような感じ。

最近、VCに「投資します」と言われると、「あなたは当社に対してどのような成長プランをお持ちですか」と聞くようにしています。

斉藤

日米ではそもそも「アントレプレナー」の意味が違うんです。日本語訳は起業家精神ですが本当は、イノベーティブなアイデアをどう実現するか、というマインドセットのこと。日本はもともと持っていたのに、なぜか取り戻せない。その原因は、教育や文化につながっています。英語でいう「エンパシー」ですね。どう人を支援しボランティアするかという意味ですが、日本ではなかなか伝わらない。

僕は運良く、いい人たちに出会えました。

斉藤

運は、自分が作る環境でありうまく事が運ぶのはパッションが伝わっているだけなんです。私の投資基準は、人なんです。日本のVCはよく、3年計画などの提出を求めますよね。しかし、私はこれまで1万件以上のビジネスプランを評価してきましたが、計画通りに進む人は一人も見たことがない。プランや数値目標は必ず変わるんです。変わっても反省してやり直す気持ち、パッションです。「この人は何があっても大丈夫だろう」という評価だけです。

結局は人。そう言ってくれる人に出会えれば、やる気になる人も増えると思うのですが。

斉藤

あとは、失敗したことがある人。ビル・ゲイツ氏、スティーブ・ジョブズ氏ら成功を収めた人は、一度は失敗しています。日本は失敗をたたきますが、失敗した人にはぎゅっと経験が詰まっている。今、日本の一つの問題は、データは多いけれども知識・知恵に昇華しないところなんです。それをするのに重要なのが、ディスカッションと失敗を許す環境。イノベーションと失敗はペアなんです。

若いときに挑戦、失敗し慣れていないと。

斉藤

ですから、私は「新卒」とか「中途採用」という言葉をイリーガルにしようと(笑)。海外で勉強するとか、会社休んでインターンして戻ってくるとかなかなか難しい。そういう、ばかなルールを崩していかないと、グローバルに合わせられなくなっちゃう。

僕自身、高校時代にオーストラリアに1年留学した経験が、その後を大きく変えました。

斉藤

その海外に「行く」経験というのが、男性は特に難しい。そういう意味で、女性は強いですね。私が投資している企業もほとんどが女性社長です。今、日本を救うのは女性ですよ。無理やり失敗しろ、じゃなくても、失敗を冒険する、くらいの環境をつくってあげるのがリーダーの役目です。

リーダーとチーム

海外ではリーダーシップをどう育成するか、皆が危機意識を持ち当たり前のように話し合っていますね。日本では堅い話になりがちです。

斉藤

iPhone(アイフォーン)と日本の携帯電話の唯一の違いは、技術にどうリベラルアーツをかぶせたかであり、リーダーがそれを理解したかどうかなんです。テクノロジーとリベラルアーツが融合する新しいリーダーが必要なんです。そういうリーダーを生もうと、大学で教えたりしていますが、理系と文系ってエイリアン同士みたいにかみ合わない。米国なら、アイデアを持った優秀な人が「数字に弱い」などとなると、周りに優秀な人材が集まってすぐにチームを作り動きだすんですが。

米国は個人の力が重要な国。そういう土壌が必要なのかな。

斉藤

日本はグループ、つまり実行部隊としてはよく動きますがチーム力がない。グループ単位のカイゼンでは、グローバル競争の時代に時間切れになってしまう。「フェイスブック」なんて10年前はなかった会社ですよ。でも、米国でなく東京で生まれてもおかしくなかった。いかにチームを組むかと。リーダーの存在が重要です。

僕は在日3世です。韓国人として教育を受けながら、違和感があった。自分は何人なんだろう、というところから始めて、国籍を決めた経験があるんですよ。

斉藤

それが強みになったんじゃない。

そう思います。決めるというのはある部分の可能性を捨てて、ある部分の可能性に乗ること。これは力なんです。「楽しいことが分からない」と言う学生には「それを決めないといけない」と言っています。

斉藤

よく「なぜ日本にいるのか」と聞かれます。私は10代で会社を立ち上げました。成功するきっかけを与えてくれたのは、日本企業でした。ですから、私をアントレプレナーにした国に恩返しをしたいというのが一つ。もう一つは、日本が世界で唯一リードしているのは少子高齢化なんです。その「答え」を知っておきたいと。5-10年後に、世界の他の国が同じ状況になるでしょう。この答えこそ輸出して、イノベーションにしたいのです。朴さんも手術シミュレーションの技術を使って、ある意味そうです。

モノづくりは非常に時間がかかるし、トライアンドエラーの繰り返しなので、知識と経験が非常に大事なんです。そういうモノづくりに価値が出るように、経営者がシナリオを描いて、世界にその価値を伝える営業部長も務めたら。一つの良い会社として、成長できると思うんです。

今こそがチャンス!

斉藤

中国やインドは日本の10倍以上の人口がいます。手足で戦っていては、数で負けちゃう。ですから、いかに少ない、手足ではなく頭脳を生かすか。そして旧来の「モノづくり」から「モディファイド(modified)・モノづくり・サービス・ハイテック」(ハイテクかつ、サービスを意識し、現代版に改良した新しいモノづくり)に持って行く方法が必要です。

もう、まさにその通りだなと。当社は産業用ロボットがモノを作っています。その方が正確だし、多品種小ロット生産に向いているから。経営者に求められているのは、今後、世界で何が求められていくのかという嗅覚と、実際に売り込んで資金回収するパッション。

斉藤

日本は頭脳という資源を持っているんです。人類史上の2大プロジェクトはアポロ計画とマンハッタン計画。二つの計画に携わった70万人の平均年齢が27歳でした。さらに、今最もイノベーティブな会社の創業者は設立時の年齢が27歳。多分、一番クリエーティブな時期なんです。これを日本の社会は捨てちゃっているのが許せない。これを支援して失敗してもサポートする組織を作り、生かさないと、新しいアイデア出てこないですよ。

60歳以上の世代は規制や業界ルールに強いんです。経験から来る知恵、ノウハウは安く買える時代になった。そして若手はIT当たり前の世代として、新しい企業人に育てることができる。

斉藤

私がよく言うのは、「いいじゃん。日本で冒険して失敗しても、米国に行けばいいんだよ。人によってはアップグレードになるから」って。日本の人口は世界の1.7%なんですよ。何でここまで、1.7%の市場のために苦労しなきゃならないんだよ!(笑)。2050年には1%切っていますからね。すぐに海外でやらないと、どう頑張っていても小さくなっているマーケットなんだから。

この前中国に行ってきましたが、よく聞くような1970年代の日本のよう。新しいものはとにかく仕入れるし、強い生命力を感じます。こちらもパッションでガツガツやって行かないと。

斉藤

中国といえば、「味千ラーメン」。創業者の女性が来日している際に、熊本ラーメンを食べて感動して、ライセンスを持って中国で展開しました。日本でラーメン屋、というと、個人経営を思い浮かべますが、アントレプレナーとはハイテクだけじゃなく、ラーメン屋でもなれるんだよ。結局やり方でありリーダーシップであり、パッションなんです。

今の日本は「これじゃダメだ」と言われてガスが充満している状態です。また、アントレプレナーが生まれにくい環境だとも言われ、僕もそう思います。でも、この状況はプレーヤーとして考えるとチャンスなんです。ここに、日本型ベンチャー企業の正しいロールモデルを示したい。多くのベンチャーが、日本発で出ていける土壌を作りたいんです。特にモノづくりのアントレプレナーっていない。だからこそやりがいがあるんです。

ナビゲーター



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